投票率が低いと、何が起きる?
八王子の数字で確かめられることだけを書きます
「投票率が低いと政治が歪む」とよく言われます。ただ、そのうちどこまでが確かめられた事実で、 どこからが推測なのかは、あまり語られません。 このページでは八王子の実際の数字で確実に言えることと、 よく語られるが実証が弱いことを分けて整理します。
確実に言えること①:有権者の0.65%の支持で市議になれる
2023年4月の八王子市議選(定数40・58人立候補)の公式結果を、 「有権者全体の何%か」に置き換えてみます。
| 得票数 | 有権者465,087人に対する割合 | |
|---|---|---|
| 最多得票の議員 | 7,356 | 1.58% |
| 最下位当選(40位) | 3,010 | 0.65% |
| 当選者40人の合計 | 172,197 | 37.02% |
最後の議席は3,010票、 有権者の0.65%——およそ155人に1人の支持で獲得されています。 そして当選者40人の得票を全部足しても、有権者の37.02%にしかなりません。 市議会の議席は、有権者の4割に満たない票で配分されている計算です。
これは評価ではなく算数です。投票率が下がるほど、 議席の獲得に必要な票が、有権者全体に占める割合は小さくなります。 逆に投票率が上がれば、同じ議席を得るのに必要な票数は増えます。
確実に言えること②:少数の票の移動で当落が変わる
2023年の八王子市議選では、当選と落選を分けたのが94票差、 さらに42位と43位の差は1票でした (くわしくはこちら)。 投票しなかった有権者は261,191人います。 このうちごく一部が動くだけで、議席の顔ぶれは変わりえます。
これも算数です。低投票率とは「動かせる余地が大きい状態」でもあります。
よく語られるが、実は実証が弱いこと
ここからは注意が必要です。「投票率が低いから政策が歪む」という説明は広く流通していますが、 研究の世界では、そこまで確かなことは分かっていません。
「投票率が上がれば政策が変わる」は、証拠が乏しい
投票率と政策の関係を扱った研究を整理した最新の総説(Cantoni・Pons・Schafer 2025)は、 選挙権の拡大によらない「投票率そのものの変化」が政策に与える影響について、 厳密に検証した研究は乏しく、既存の証拠は相関研究にとどまると述べています。
実際、投票を義務にした国々の研究は、結果が割れています。
| 国・研究 | 投票率への効果 | 政策への効果 |
|---|---|---|
| オーストラリア Fowler 2013 | +24ポイント | 労働党の得票増・年金支出増 |
| オーストリア Hoffman ほか 2017 | +10ポイント | 政府支出にも選挙結果にも効果なし |
| スイス(郵便投票の導入) Hodler ほか 2015 | 上昇 | 福祉支出はむしろ減少 |
研究者が指摘する分かれ目は、「新たに投票した人たちが、はっきりした政策の希望を持っていたかどうか」です。 投票率だけが上がっても、その人たちが誰に何を求めるか決めていなければ、結果は動かなかった—— オーストリアの研究はそう解釈されています。
「高い投票率=良い政治」でもない
108か国548回の選挙を分析した研究(Martinez i Coma・Morgenbesser 2020)によれば、 権威主義的な体制では野党が圧力を受けているときや選挙に競争がないときほど、投票率が高くなる傾向があります。 投票率は民主主義の健全さを測る物差しにはなりません。
当サイトは「投票率さえ上がればよい」という立場を取りません。 数字を上げること自体が目的になると、こうした事実を見落とすことになります。
では、何が言えるのか
研究が示しているのは、「何人が投票したか」より「どんな人が、何を分かって投票したか」のほうが結果を左右するということです。 投票率を押し上げる施策が、政策について特に考えていない層を動員したときには、 政策が動かないか、期待と逆方向に動いた事例すらありました。
だから当サイトは「とにかく投票に行こう」とは言いません。 その代わり、調べてから投票する人が増えるための材料を置いています。 現職議員が議会で実際に何を質問してきたか、前回の選挙はどんな結果だったか—— 判断の材料は、すべて公開情報から確認できます。
-
テーマから探す
子育て・防災など、関心のあるテーマを議会で取り上げた議員がわかります。
-
このサイトの歩き方
「誰に投票するか」を自分で決めるための5ステップ。
-
「どうせ変わらない」と思っている人へ
説得はしません。事実を3つだけ置いています。
-
わたしの投票プラン
行くと決めたら、いつ・どこから・どうやって行くかを1分で。
よくある質問
投票率が低いと、組織票の影響力が強くなるというのは本当ですか?
「投票総数が減れば、まとまった票の占める割合が相対的に大きくなる」という算術的な関係はあります。 ただし、それが具体的に選挙結果や政策をどう変えたかを実証した研究は、当サイトでは確認できていません。 算数として言えることと、実証されたことは区別してお読みください。
投票率が低いのは「政治に満足しているから」という説明もありますが?
そう説明されることがありますが、これも実証されているわけではありません。 棄権の理由は人によって異なり、単一の説明で片づけられるものではないと考えています。
結局、投票率は上がったほうがいいのですか?
当サイトはその判断をしません。確実に言えるのは、 2023年の八王子では有権者の0.65%の支持で議席が得られ、当落が94票差で決まったという事実だけです。 それをどう受け止めるかは、読む人に委ねます。
- 八王子市選挙管理委員会 選挙結果(2023年市議選の得票・有権者数・投票率)
- 2023年八王子市議選の全結果(当サイト・全58候補)
- Cantoni, Pons & Schafer (2025) "Voting Rules, Turnout, and Economic Policies", Annual Review of Economics(NBER WP 32941)
- Hoffman, León & Lombardi (2017) "Compulsory voting, turnout, and government spending: Evidence from Austria", Journal of Public Economics
- Fowler (2013) "Electoral and Policy Consequences of Voter Turnout: Evidence from Compulsory Voting in Australia", QJPS
- Hodler, Luechinger & Stutzer (2015) "The Effects of Voting Costs on the Democratic Process and Public Finances", AEJ: Economic Policy
- Martinez i Coma & Morgenbesser (2020) "Election turnout in authoritarian regimes", Electoral Studies
得票数・有権者数は八王子市選挙管理委員会の公表資料に基づき、割合は当サイトで計算しました (得票数の小数は按分票によるものです)。海外研究の紹介は、各論文の要旨・本文に基づく要約です。 公開日: 2026年7月26日。
免責: 本記事は公開情報と学術研究に基づく一般的な情報提供であり、 特定の政党・候補者の支持・推薦、投票の強制を意図するものではありません。 紹介した研究には見解の相違があり、当サイトはいずれかが正しいと判定するものではありません。